
この土地は、奈良市の人気エリアに位置し、三方向が道路に面した広い敷地です。
しかし、敷地には約2メートルを超える高低差があり、そこに築50年ほどの古い建物が建っていました。大きな道路側から見ると2階建てに見えますが、隣地側からは3階建てに見えるという、非常に特殊な状態でした。
さらに、この既存建物はこのエリアの法的基準 一種低層住居専用地域には適合しておらず、高さや面積の面でも法的な問題を抱えており、それ以外にも不確定要素の多い物件でした。
そのため、条件の良い立地でありながら、長い年月にわたって売れ残っていたのです。
近隣ではここよりも狭い土地が高額ですぐに売れていく状況もあり、この土地が抱える問題の大きさが際立っていました。

既存建物を詳しく確認した結果、敷地の高低差部分には鉄筋コンクリート造の重力擁壁が設けられ、その擁壁に接する形で鉄骨造の3階建て建物が建っている可能性が高いことがわかりました。
しかも、この擁壁と建物については正式な申請記録がなく、法律的な安全性の担保を取ることができない状態です。
つまり、この土地は見た目以上に大きなリスクを抱えている土地であることは明らかでした。

通常、このような土地では、既存の建物と擁壁を撤去したうえで、三方向を囲う新たな擁壁を築造し、土地をフラットに造成します。
その後、地盤改良を行い、ようやく2階建て住宅を建てる、という方法が一般的な答えとなります。
しかしこの方法では、既存建物の解体、擁壁の撤去、新しい擁壁の築造、盛り土や地盤改良など、工程が非常に多くなり、予測を遥かに上回るコストと長い工期が必要になります。それだけの負担をかけたにもかかわらず、完成する建物は特別な魅力を持たない、凡庸な住宅になってしまいます。
この不確定要素とリスクの多さが、結果として誰も手を出さない土地にしていました。

しかし、ケンソウアーキテクツでは、この土地を「避けるべき土地」とは考えませんでした。
まず初めに構造や建築法規の問題点を一つひとつ丁寧に読み解くことから始めました。
リスクを正確に把握し、それに対する適切な対策を講じることで、この土地は通常の住宅よりもはるかに魅力的な建築へと変えられると感じたからです。
法的な裏付けが取れていない既存擁壁については、国土交通省の既存擁壁の指針を参考に調査を行い、その結果、現状の擁壁は大きな問題はないと判断しました。
この既存擁壁を撤去せずに残し、新築建物と構造的に完全に分離し互いに影響を与えない構成とすることで、法的な問題点を解決しています。
この計画の最も重要なポイントは敷地の高低差と既存擁壁そのものを設計に取り込むことです。

リスクを減らし、価値に変える設計
敷地の傾斜に沿って高基礎を設け、1階部分を半地下とすることで、高低差を無理なく吸収しました。
建物へのアプローチは斜面途中の中二階の高さから入り、そこから半階下りると1階へ、半階上がると2階へとつながる、立体的な構成としています。この構成により、限られた高さの中でも豊かな空間体験を生み出すことを考えました。
さらに、2階部分を大きな道路側に向かって張り出させることで、既存擁壁の上に木造の箱が浮かんでいるようなデザインを検討しました。そうすることで、この土地の高低差と既存擁壁があるからこそ成立可能な建築とすることができます。

これらの設計意図や考え方については、施主様と丁寧に共有し、メリットだけでなくデメリットやリスクについて時間をかけて話をしました。
プレゼンテーションと打ち合わせの中で、施主様は次第に目を輝かせ、「この土地でしか建たない家」に強い期待を寄せてくださいました。
ここで考えた事は、問題を抱えた土地を無理に「普通」に整えるのではなく、その条件を正しく理解し、設計によって価値へと変える事です。
建築設計は、条件の良い土地だけでなく、難しさを抱えた土地にこそ、その本質的な力を発揮できることが可能であると信じています。
次回は実際の提案の計画案をアップしますね!!



